祈りのソナチネ
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「祈り」や「願い」をテーマとしたSF、ファンタジー掌編集です。 「愛なんていらない」「愚かな私の願い事」「きっとどこかへ繋がっている」「幸福なひと」等掲載。 文庫 34P 幸福なひと 愛してはいけないものを愛した時、人の真価が問われる。 そんな誰かの言葉を信じるのだとすれば、きっと私は愚か者だろう。 ヒューマノイドを愛してはいけない。そんなことは、子どもだって知っている。彼、彼女らは見目麗しく、聡明だ。その頭脳には、どうすれば人が喜ぶのかというパターンが、幾万も組み込まれている。そして感情がないからこそ、その規則に従って振る舞うことができる。だから人がヒューマノイドに惹かれるのは当然なのだ、と。 わかっている。そんなことはわかっている。だが目の前にいるこの年老いたヒューマノイドに、私は手を差し出さずにはいられなかった。 見目麗しくもなく、返答も遅く、頼りない足取りで歩くこのヒューマノイドが、祖母のように思えてならなかった。 何のためにそう作られたのかわからぬこのヒューマノイドを、私は愛しているのだ。 そのつぶらな瞳が私を捉え、名を呼ぶ。たったそれだけのことで、目頭が熱くなる。亡き祖母とは似ても似つかぬこの機械に、何故思いを重ねてしまうのか。 わからない。わかるのは、私が愚かであることだけだ。 私はきっといつか、このヒューマノイドを所持することになるだろう。そうして周囲から笑われながら、幸せ者となる。その確信だけが、この胸にはあった。
「祈り」や「願い」をテーマとしたSF、ファンタジー掌編集です。
「愛なんていらない」「愚かな私の願い事」「きっとどこかへ繋がっている」「幸福なひと」等掲載。
文庫 34P
幸福なひと
愛してはいけないものを愛した時、人の真価が問われる。
そんな誰かの言葉を信じるのだとすれば、きっと私は愚か者だろう。
ヒューマノイドを愛してはいけない。そんなことは、子どもだって知っている。彼、彼女らは見目麗しく、聡明だ。その頭脳には、どうすれば人が喜ぶのかというパターンが、幾万も組み込まれている。そして感情がないからこそ、その規則に従って振る舞うことができる。だから人がヒューマノイドに惹かれるのは当然なのだ、と。
わかっている。そんなことはわかっている。だが目の前にいるこの年老いたヒューマノイドに、私は手を差し出さずにはいられなかった。
見目麗しくもなく、返答も遅く、頼りない足取りで歩くこのヒューマノイドが、祖母のように思えてならなかった。
何のためにそう作られたのかわからぬこのヒューマノイドを、私は愛しているのだ。
そのつぶらな瞳が私を捉え、名を呼ぶ。たったそれだけのことで、目頭が熱くなる。亡き祖母とは似ても似つかぬこの機械に、何故思いを重ねてしまうのか。
わからない。わかるのは、私が愚かであることだけだ。
私はきっといつか、このヒューマノイドを所持することになるだろう。そうして周囲から笑われながら、幸せ者となる。その確信だけが、この胸にはあった。